本田宗一郎氏が書いた「得手に帆あげて」を読みました。この「得手に帆あげて」は自分が得意なことをどうどうと見せて、そこを伸ばしていこうという経営者としての心がこもった言葉です。「脳ある鷹はつめを隠す」という言葉がありますが、何も才能は隠すことはなくて、才能を表に出していこうということです。ドラッカーの書籍でも人事の配置は「弱み」を見て決めるのではなくてあくまでも「強み」を見て決めるべきだと書かれているのにも通じると思いました。
また、「現代はデザインの時代」と書かれています。単に機能や品質だけではなく、デザインの大切さを訴えています。1970年代からこのような点に着目されているというのは、経営者としてすばらしい着眼点だと思いました。特に自動車やオートバイという分野では特にデザインも重視されるので、早くからこのような考えを持っていたのでしょう。
見た目のデザインという意味では最近ではダイソンの掃除機が印象に残っていますが、広義のデザインという意味で受け取ると見た目以外の設計全般も今後ますます重要度が増していくのではないでしょうか。ラッタッタのコマーシャルで有名になったHONDAのロードパルも優れた製品だったと思います。
国際人としての振る舞いが大事だという話しもあります。今でこそ、グローバル人材の育成がいろいろな会社で課題としてあがっていますが、HONDAは早い段階から米国などへの進出を果たしてきていたので、その難しさがとてもよくわかっていたのでしょう。本の中では食事のときのマナーやパーティなどではすぐに相手の名前を覚えて、名前で相手を呼ぶことの大切さなどが触れられています。
また、交通機関に対する辛口のコメントもありました。たとえば首都高速は、なぜ入口と出口を必ず対でつくらなければいけないのかと問われています。出口をもっと多く作って客ハケを良くすれば渋滞も減るのではないかという視点はとても面白いと思いました。新幹線も雪の多い関が原ルートなどを選ばずに、距離も短くて済む鈴鹿ルートにすればよかったのではないかという指摘もあります。本田宗一郎氏がどんなことに興味を持っているのか、その一部を知ることができる面白い話しだと思いました。
別荘を持つというのも無駄だと言い切っています。別荘を買うお金があれば気が向いたときに世界各国のホテルに泊まることができます。いわばホテルは自由に動かすことができる別荘だという発想です。これは私も同感です。ただ、文豪のように別荘にこもって文学作品を書き続けたりする人など、別荘を持つことに価値がある人も数多くいるのではないかと思います。
ただ、すべてがあたっているわけでもありません。たとえば、漢字は覚えにくいし同音異義語もたくさんあるので、もっとカタカナを有効に使うべきだという指摘があります。カタカナにすればコンピュータに投入するのも簡単で良いという指摘なのですが、この本が出てから40年経った現在では、パソコンに漢字を入力するのもとても簡単になってしまいました。当時は東芝のルポに代表されるようなワープロすら普及する前だったと思いますので、ここまで技術が進歩することは想定できなかったことだと思います。
とても判りやすい文章で書かれていて、印象に残る話しも数多くありました。
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