最近、人手不足倒産という報道もあるように、少子高齢化に伴う就労人口の減少に伴う人手不足が深刻な社会問題になっています。特に路線バスの運転手不足は深刻でNHKでは特設のサイトまで作って記事を掲載しています。その記事を読んでいくと、入社4年で約半数の運転手が会社を辞めてしまうという事実が書かれていました。
激務と賃金体系
仕事にやりがいはあるものの、激務であることや給料が安いことが辞める原因になっているということです。全国各地の路線バス246事業者のうち157事業者が赤字になっているということなので、バス運転手の給与を上げようとしても、なかなか実現しません。また、激務という面でも13時間以上の拘束や16時間ギリギリの拘束もあると運転手は答えていました。
こちらは厚生労働省の賃金構造基本統計調査報告からの引用です。全産業平均(男子)の年間総労働時間が2172時間であるのに対して、バスは2,508時間にもなっています。
逆に年間の総賃金に関しては、毎年下がり続けているのが実情です。
イーグルバスの取組み
調べてみると、埼玉県のイーグルバスの事例が見つかりました。イーグルバスは川越の名所を巡るバスを1995年から運行し、さらに2006年からは埼玉県の日高町やときがわ町で路線バスを運行しています。この日高町やときがわ町の路線はもともとは大手の会社がバスを運行していた地区でしたが赤字のまま撤退することになったのでイーグルバスが引き継ぎました。このイーグルバスでも人手不足が深刻な課題になっていました。
そこでイーグルバスでは社員の給与をアップさせて契約社員に関しても一定の条件のもとで正社員にしました。また同時に評価や教育制度なども一新したそうです。この新たな取り組みにより最大で給与が100万円もアップした社員もいるそうです。それでは労務費を補うための売上高アップ対策はどうしたかという話しになりますが参考にした日経ビジネスの記事では高速バス事業への参入というキーワードはあったものの、他に具体的な対策は紹介されていませんでした。
イーグルバスのように運転手の待遇を改善して運転手に定着してもらうことができれば良いのですが、それも実現できなければ、バスの減便や路線の廃止が続いてしまいます。平成28年度までの10年間で1万3991キロの路線バスが無くなりました。路線バスの旅のような番組を見ていても、昔はバスが走っていたけれどもというセリフがよく現地の人から出てきます。
路線バスに自動運転が導入されて運転手が必要なくなれば人手不足の問題も解消が見えてきますが、今の自動運転技術ではまだ厳しい状況です。
少子高齢化に伴う今後の対策
以前は鉄道が走っていた地域も採算が取れなくなって鉄道は廃止され、代替に路線バスが走っています。今度は人手不足で路線不足の運行が厳しくなると、公共交通が無くなってしまいます。地元の自治体がバス会社をさらに支援できれば良いのでしょうが、税収減で地元の自治体も大変なことになっていますのでバス会社への支援増強までなかなか手が回りません。
路線バスに限らず、水道や下水道、電気などの生活インフラも、人手不足や維持コストの増大などで、維持するのが難しくなってきます。
財政破たんした夕張市がとっている対策のように、市街地から遠く離れた地域に住んでいる人々を将来的に国道沿線などの便利な場所に集団移転してもらう住宅再編事業等、抜本的な対策が必要になってしまうのかもしれません。
【2024年1月30日追記】
労働規制の引き締め強化におる2024年問題
運転手の労働環境を改善するために2024年4月から労働規制が強化されて、バス運転手の年間労働時間の上限が3300時間に引き下げられます。また、退勤から次の出勤までの休息時間は今よりも長く確保することが求められるようになります。
日本バス協会では全国のバス会社778社に対する聞き取りを実施した結果、2023年度は全国で12万1000人の運転手が必要なのに対して、実際の運転手は11万1000人で1万人不足していることが判っています。少子高齢化に伴い、2030年には運転手は9万3000人まで減少することが想定されているので、日本バス協会では「賃金や労働条件の改善などさまざまな取り組みを行っているが、運転手を確保できなければ更なるバスの減便や廃止の拡大は避けられない」としています。
バスの自動運転などで運転手不足を補う案もありますが、バスを利用する乗客自体も減っていてバス事業者の採算が合わないという抜本的な問題もあるので、コンパクトシティのように町に住民を集めて、上下水道、電気、ガス、道路、橋などのインフラ維持管理コストを縮小するのと同時に、バス便に頼らなくても良い街づくりを進めていかなければ、さらに厳しい状況に陥るのではないかと思います。
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