量子計算機の得意分野と今後の活用への期待

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 量子コンピューターの計算速度が現在の世界最速のスーパーコンピューターを大幅に上回ったことを英国の科学誌ネイチャーに掲載されて大きく話題になっています。スーパーコンピューターで1万年かかる特殊な計算を量子計算機では3分20秒で終えたとのことです。

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量子コンピューターとは?

 1981年に米国の物理学者、ファイマンが元となるアイディアを示した以降、以降、本当に実現できるのか否か議論および実証が行われてきました。

 極めて微小な世界を解き明かす物理法則である量子力学を利用して計算するコンピューターです。量子は波と粒子の性質を併せ持っています。

 従来のコンピューターでは基本単位として、0と1というビットを基本単位として情報を表していますが、量子コンピューターでは0と1の両方を同時にとれる「重ね合わせ」を利用した特殊な単位である量子ビットを使うため、大量の情報を高速処理できると期待されています。

 超高速で省電力な上、従来のコンピューターの処理速度の限界を超えられることから、IT大手の会社などが研究開発を進めています。

今回の実証

 情報の基本単位である量子ビットの数が53個ある量子コンピューターで、材料には電気抵抗が抑えた超電導状態のアルミニウムを使って実証が行われました。通常のコンピューターと量子コンピューターでは得意とする計算が違っており、今回は量子コンピューターが得意とする特殊な数学の問題を使って高速で解いています。

 例えば「巡回セールスマン問題」と呼ばれる一見は簡単そうでも実は組み合わせ量が膨大で計算が大変なようなものに量子計算機は向いているそうです。巡回セールスマン問題とはセールスマンがいくつかの都市を1度ずつ訪問して出発点に戻るとき、その移動距離を最小限にする経路を求める問題なのですが、たかだか15都市を回るだけでもそのルートの組み合わせは全部で1兆を超えてしまいます。

 東京新聞の記事によれば、「今回は量子コンピューターに有利で実用性に乏しい問題を選んで解かせた。現在の計算能力は産業利用には足りず間違いも起こる。多様な問題を正確に解くスーパーコンピューターと競う水準に達するのはまだ先とみられる」と報じています。

 今回は誤りに関しては、量子ビット同士の相互作用を制御するなどの工夫を通して計算過程のミスを減らす工夫を行っています。

 いずれはスーパーコンピューターの計算速度を超える「量子超越性(Quantum Supremacy)」が実証されることが言われてきましたが、実際に証明されたのは今回が世界初とみられています。

IBMによる反論

 WIREDの記事によれば、10月21日にIBMの専門家グループが今回の発表に関して、「現代のスーパーコンピューターの能力を最大限に活用していない」とする主張をしていることが報じられています。従来のコンピューターで計算をすると1万年かかるという部分が焦点になっていますが、従来のコンピューターと比較して量子計算機の方が計算速度が速かったのだとすれば、今回の発表には十分に意義があったことになります。

今後の展開

 現時点では実用性に乏しい問題を解かして比較していたとしても、このような研究が進むことで実用領域に一歩ずつ近づいていくことが期待されます。物流や創薬、人工知能への学習等、いろいろな分野での応用が期待されるところです。逆に暗号化されたものの解読などセキュリティを司る分野では逆に脅威となるため、対策も必要となります。

【2019/11/06追記】

 量子計算機の膨大な選択肢の中から一瞬で最適解を導く性能には化学品や創薬を含む素材、金融、IT、自動車といった分野から業種の企業から注目されていることがITmediaエグゼクティブで紹介されていました。

 実際、三菱ケミカルは慶應大のキャンパスからニューヨークのIBM量子コンピュータに遠隔で利用し、リチウム空気電池などの開発を進めているそうです。なぜ量子計算機を使うとリチウム空気電池の開発ができるのか、どんな計算をさせているのかといったことは分かりませんでしたが、量子計算機のエラーが発生しないような対策が進むことで、より実用化が進んでいくと大きな改革につながっていくのかもしれません。

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