失敗学の提唱者として知られている東京大学の畑村名誉教授が日経ビジネスオンラインのインタビューに、「誰も考えないリスクを考えるのがリーダー」という受け答えをしている記事がありました。この中で紹介されていたのは、東日本大震災の実体験に基づく災害初動期指揮心得という国土交通省東北地方整備局がまとめた本です。この冒頭に「備えていたことしか役には立たなかった。備えていただけでは十分ではなかった」という記載があります。
想定して洗い出されたリスクに対して何から何まで準備するのはコスト的にもリソース的にも時間的にも難しいです。しかし、リスクに気が付いていてやらなかったことと、リスクに気が付いていなかったこととは違うという指摘がとても新鮮でした。この予めしっかり考えたり、調べたり、議論をすることで、いかに想定していなかったリスクの領域を減らしておくことは指導的な立場にある人の大きな役割だと思うと畑村名誉教授は述べています。
特に波乱万丈な出来事の中で生き残ってきた組織は、将来のリスクに対して敏感なところがありますが、比較的安定した環境で事業を続けてきた組織は将来の新たなリスクに対して鈍感な面があります。いわば、ゆでガエルの状態になりやすい。しかし、誰かが想定されるリスクをあげたところで、なかなかその組織で危機感は共有できません。
以前、カモメになったペンギンという本を読みました。ペンギンたちが幸せに暮らしている氷河に亀裂ができていて、その亀裂が徐々に広がっていること、そして近い将来、その氷河の上では暮らしていけなくなることにあるペンギンが気が付きます。このリスクに対する危機感をどのように他のペンギンたちと共有して、アクションにつなげていったかということを判りやすく解説した本です。
あまり指導的な立場にある人がリスク、リスクと言っていると、その組織にチャレンジしない風土が根付いてしまう、単にリスク、リスクと言っているだけでなく、その中で大きなリスクについては適切に対策まで考えていくことで、リスクの高い事業にチェレンジしていく風土も作っていく必要があるのでしょう。京セラを創業した稲盛和夫さんが、楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行するという経営哲学を話されていますが、この悲観的に計画する部分が将来のリスクを洗い出して必要な対策をとっておく部分です。悲観的に計画したからこそ、楽観的に実行できる、先ほどの東北地方整備局の件も通じるところがあるのではないかと思いました。
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