従来は鉄道を利用する場合には切符を購入するか。SuicaやPASMOなどの交通系ICカー
ドで乗車するのが常套手段でした。しかし、最近になってからQRコード決済やクレ
ジットカード決済も導入している鉄道会社があります。クレジットカードのタッチ決
済が国内で初めて利用されたのは2020年7月、2023年11月時点で全国62の事業者が対
応済みで、今後導入予定の事業者を含めると88にものぼります。
交通系ICカード以外が導入されているのはなぜ?
交通系ICカードはFericaチップのおかげで改札機を通る時の処理速度がとても速いの
が特徴です。しかし、QRコード決済やクレジットカードのタッチ決済では処理速度が
遅くなってしまいます。Suicaの処理速度は約0.2秒、クレジットカードのタッチ決済
だと0.25秒から0.35秒ほどです。実際に使ってみると、クレジットカードのタッチ式
だと改札機でワンテンポ遅いという印象があると報じている記事もありました。読み
取り可能距離もSuicaは10㎝であるのに対して、クレジットカードのタッチ決済は4㎝
~5㎝と、読み取り部により近づけなければいけません。
なぜ、そこまでして、交通系ICカード以外を導入しようとしているのか、その真意
がよく判っていませんでした。しかし、ITmediaオンラインでそんな疑問に答えてく
れる記事がありました。
導入コストの違い
クレジットカードのタッチ決済については、交通系ICカードほど鉄道会社の費用負
担がかからないというメリットがあるようです。ただ、交通系ICカードであろう
が、クレジットカードのタッチ決済であろうが、イニシャルコストにそんなに差が出
るような印象はありません。交通系ICカードのイニシャルコストの内訳は、「シス
テムの導入・検証にかかる費用の比率が大半を占める」といい、そのほか、サーバや
駅務機器等の設置や光ケーブルの敷設などの設備工事に加え、大変なのは社員教育と
のことです。ただ、クレジットカード決済でも大変さは変わらないような気がしま
す。なぜ交通系ICカードであると導入費用が多額になるのかはもう少し調べてみま
す。地方の鉄道会社では高額になるそんな理由でクレジットカードのタッチ決済を導
入している場合があるようです。乗客が都会の駅ほど多いわけではないので、処理速
度の高さがそこまで要求されることもありません。
訪日外国人などへの対応
交通系ICカード以外の決済手段の導入が進められているもう一つの理由は交通系I
Cカードを持っていない訪日外国人や地方に住んでいる人が都心の交通機関で利用す
ることが想定されています。すでにロンドン、ニューヨーク、シンガポールなどで世
界780超の都市でクレジットカードタッチ決済は導入済みです。
江ノ電は交通系ICカードのほかにクレジットカードのタッチ決済を導入しています。
どちらかというと、江ノ電については導入コストというよりは訪日外国人に利用しや
すくするために導入しているように思えます。また、他の鉄道会社と相互乗り入れを
している事業者と比較して、江ノ電は路線が完全に独立しているので、クレジット
カードのタッチ決済を導入しやすい面もあったと思います。
企画券など特別なきっぷの販売
さらにもう一つの理由としては、交通系ICカードではできないサービスを実現する
ためと考えられます。南海電気鉄道では、QRコードを使用した「南海デジタルきっ
ぷ」を発売していて、観光用に往復割引乗車券とフリー乗車券のセットや往復乗車券
とお買物券の引き換えチケットのセットなどがあります。他にも東急電鉄や京王電鉄
が同様の取り組みを実施しています。スマホで企画切符を購入した後、QRコードを表
示することで、改札機を通ったり、関係施設の入場でQRコードを利用したりといった
自由度が高い点はメリットになるのでしょう。Suicaではバスの一日乗車券、JR東日
本の都区内パスといった用途迄は想定して作られていますが、各鉄道会社がスマホと
連動して企画券を発行することまでは厳しそうです。何かスマホアプリと連携できる
APIを作って各鉄道会社の拡張性を容易にするような取り組みが交通系ICカードにも
必要なのかもしれません。
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