2023年1月2日に発生した海上保安庁機とJAL機の衝突炎上事故は、その後報道される情報を見ていると、これだけ技術が発達した時代にヒューマンエラーでこんな事故につながるのかという驚かされる事故でもありました。
報道内容の変化
当初の報道では管制官と海上保安庁機の意識に齟齬があり、海上保安庁機が滑走路に出てしまったことが原因のようなニュアンスの報道が多かったのですが、その後の報道を見ると、空港の設備にも疑問を呈する報道が出てきています。
同一の滑走路に複数の航空機を同時に進入させることは基本的にはあり得ないですが、今までも誤進入のトラブルは発生していました。再発防止策として監視装置の設置などを各空港で進めましたが、その後も誤進入のトラブルが発生しています。
1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には事故寸前だった300件の異常、いわゆるヒヤリハット(ヒヤリとしたりハッとしたりする危険な状態)が隠れているというハインリッヒの法則がありますが、軽微な事故やヒヤリハットを教訓として活かせなかったがために発生した事故ではないかとも思えます。
安全を保つための仕組み
羽田空港の管制塔では人為的なミスを防ぐために着陸機が接近している滑走路に別の機体が進入した際に注意喚起する機能があります。もしも着陸機が接近している滑走路に別の機体が進入した際は、表示装置の該当滑走路全体が黄色に点滅し、機体は赤色で表示される仕組みになっていて、管制官が異常発生に気づきやすいようにできていました。この機能は事故当時も正常に動作していたとされています。
さらには、事故が発生した滑走路と誘導路の境目には赤色のランプを備えた停止線灯があります。しかし、2022年4月から、メンテナンスのために運用を停止していたと国土交通省は説明しています。自動車や鉄道で言えば信号機が壊れているのに自動車や列車を通常通りに走らせているように聞こえてなりません。
さらには、もしもこの装置が運用されていたとしても、見通しの悪さや管制官の判断で使用するかどうかを決めていて、事故当時は使用する条件に当てはまらなかったとしています。しかし、事故が起きたのは日没後です。暗くなってから、目視で確認することは限界があったと思えます。さらに航空機の発着数が国内最多の羽田空港で、正月の混雑に加えて被災地への物資輸送が重なり、管制業務で過密になっていたはずです。こんな状況であるにも関わらず、安全装置を使っていなかったのはどうしても理解できません。
元機長の意見
朝日新聞デジタルで元日本航空機長の八田洋一郎さんは下記のように答えています。
世界の一部の空港ではゲートから滑走路までの誘導路上にもライトが設置され、ライトに沿って行けば滑走路に到達。停止線灯が点灯し、進入できる状況になれば消灯するため、土地勘がなくても進行しやすかった」、「誤進入の対策として、視界の良しあしにかかわらず、日常的に使われるようになることが有効だ。費用や管制官の負担は増えるが、二度と同じような事故を起こさないためにも必要だ」
国交省では再発防止策の一つとして、管制室内の画面に表示してくる情報を常時監視する人員を配置することを発表しています。しかし、心配なのは管制官を増員はせず、役割を見直すことで対応すると報道されている点です。
ヒューマンエラーによる事故を防ぐために、ハードウェアとソフトウエアでの技術的予防対策も間違えなく必要だと思います。
今後、運輸安全委員会を中心にして事故調査が進められます。ここで導いた原因に基づいて、再発防止策が実行されていく形になります。
コメント