NISAに比べ魅力度が低い個人型確定拠出年金(iDeCo)と金融庁の要請

 2024年1月から新型NISAが始まって、マスコミでもよく取り上げられるようになりました。非課税限度額も大きくなって魅力的な制度に一新しています。それに比べると、個人型確定拠出年金のiDecoはあまり目立たない仕組みになってしまいました。そんな状況の中で、金融庁が2025年度税制改正でiDeCoの拡充を要望していることが8月下旬に明らかになり話題になっています。

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iDeCoは老後資産の形成が目的

 新型NISAは老後のための資産形成という目的でも利用できますが、いつでも税金を引かれることなくお金を引き出すことができる自由度があります。しかし、iDeCoはあくまでも確定拠出年金の名前の通り、老後の資産形成が目的です。iDeCoがNISAと大きく異なる点は、iDeCoの掛け金が全額「所得控除」の対象になる点です。所得控除のメリットが判りにくいですが、仮にiDeCoの掛金が毎月2万円で所得税が10%、住民税が10%(合計で20%)の場合は、年間で4万8000円の税金が軽減されるという大きな効果があります。

 また、NISAの場合は投資信託などを解約すると、解約した枠は翌年まで復活しませんが、iDeCoの場合は全体の枠の中で金融商品をスイッチする形になり、枠が減ったり復活したりすることはありません。また、iDeCoの枠内で投資信託から定期預金にスイッチするときに利益が出たとしても、その利益に対する約20%の税金が徴収されることはありません。さらに、iDeCoで貯めたお金を老後に引き出そうとした際にも税制優遇の仕組みを使えます。(年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」)

拠出限度額が低い

 本来は有利なはずのiDeCoですが、なぜこれほど印象が薄いのでしょう。一つはiDeCoの拠出限度額が非常に低い点が挙げられます。

iDeCoの拠出限度額

 第一号被保険者であっても年額81万6000円に限られ、NISAの上限額(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)と比較して見劣りする。

  • 第1号被保険者(自営業者等):月6万8000円
  • 第2号被保険者(会社員・公務員等):月1万2000円~2万3000円
  • 第3号被保険者(専業主婦(夫)):月2万3000円

 自営業者の場合は国民年金による給付水準が、第二号被保険者が加入する厚生年金による給付水準に比べて低いので、iDeCoで上乗せする額を大きくする意図があるものと思いますが、それでも上限額が低いのが実情です。

 NISAで上限を埋める限界まで積み立てようとすると、毎月30万円という大きな額になります。NISAだけでも枠を埋められないのに、iDeCoの枠が大きくなったところで仕方がない、金持ち優遇なのではないか?という議論もあるようです。老後資金の準備と目的が決まっているのであれば、掛金を払う段階で税制優遇が受けられるiDeCoの枠を埋めてからNISAで投資という考え方もあるかもしれません。

 今後、少子高齢化の進展に伴い、国民年金や厚生年金の給付水準が十分に確保できない状況になっていったとすると、個人でも年金の準備をしていかなければいけません。掛金を払っている若いうちから税制優遇を受けることができるiDeCoの拡充については、ぜひ進めていってほしいと思います。

【2025年1月8日追記】

iDecoの拠出限度額引き上げ

2024年12月20日に「令和7年度税制改正大綱」が公表されました。この中にiDeCoの拠出限度額引き上げの変更点が記載されています。例えば、企業年金の無い会社員であれば、従来は月額2万3000円までだった限度額が月6万2000円まで大きく引き上げられます。拠出時の掛金は全額「所得控除」の対象となるため、その年の所得税や住民税が軽減される効果があるので、掛金をふやすと税金を少なくする効果が大きくなります。

出口での改悪

今回の改正の注意点としては、iDeCoを老齢一時金として受け取った後の翌年から9年以内に、退職一時金・企業年金等の一時金を受け取った場合は、退職所得控除の計算において勤続(加入)期間の重複を除くものとされたことです。現在は「4年以内」とされていました。例えば、退職金を受け取ってから9年以内にiDeCoを老齢一時金として受け取ると、iDeCoの方は退職所得控除の枠を使えなくなります。

このような不信感の残る制度改正を実施することは、結局のところ、iDeCoが積極的に活用されない原因になってしまうのではないかと思います。

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